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中国ボート事情

中国ボート事情 [2021年02月19日]

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この10年間のあいだ中国のボート事情は世界経済の状況,政治的な要素などにより様々に変化している。それは上海ボートショーの変遷を見ると良く分かる。

私が初めて上海ボートショーを見に行ったのは2008年の第13回であった。この時は市街地の中心、南京西鴼に面した上海展覧中心が会場であった。この会場は絵画展などには適している、ロシア風の建物で小さい部屋がたくさん並んでいる、小型ボート、エンジン、部品などは館内に入れられるが少し大きなボートやヨットは前庭や建物脇の屋外に並べていたがその数は限られていた。この時は海外からの業者と国内の業者との商談、海外からのクルーザーの売り込み、OEM先の調査、部品等の買い付けが主で、海外来場者の泊まるホテルに近いこの会場は便利であった。

 上海展覧中心

 

2008年9月、リーマンショックが発生し世界中の経済は落ち込んだ。しかし中国は直ちに4兆元(約80兆円)の財政出動を実行し景気の落ち込みを防いだ、そしてこれは世界経済も救うことになった。この財政出動は当初高速道路の建設に使われが、やがて富裕層の懐を温めることにつながった。

そしてこの富裕層の人たちは大型クルーザー、スーパーヨットの購入に向かった、目的はあくまでもステータスでボーティングを楽しむわけではな かったがそれでも高級マリーナ、マリーナ付きリゾートマンションの建設も同時に進んでいった。 これより以前、台湾のスーパーヨットビルダーが中国に進出、第2工場を設立したので中国でもクルーザーが作れるようになった。 そこで海外向けのクルーザーをOEM生産するメーカが増えてきた。

 

2012年ボートショーの会場は上海世博展覧場に移った。高級クルーザーを売り込もうという海外メーカー、そして国内生産艇を海外バイヤーに見せたい国内メーカーからの要求により、大型艇を展示できる会場が必要になったためである。

ここは2010年に開催された上海万博の跡地であるが、大きな展示場が作られ、館内に50フィートのクルーザーを入れることが出来、前の広場にも大型艇を並べることが出来た。

この2012年の第17回ボートショーは展示館の内外に大型艇が並び壮観であった。

 上海世博展覧館

館の前の広場にも大型艇が展示された

 

しかし、2011年12月に出された贅沢禁止令が、当初は共産党員と役人が対象と言われていたが、習近平主席はライバルの追い落としなどに利用し始め、2012年になると全中国に広がっていった。慌てたのはスーパーヨットや大型クルーザーを買った金持ちで、こんな目立つものを持っていてはすぐ刺されてしまうというので大型艇や高級マリーナの会員権はすべて売りに出されてしまった。また買う人もいなくなった。そのお金はやがてマンション投資に向かったがこれも規制され、人の住まないゴーストマンションがたくさん生まれた。次に株のブームが起きたがこれも対策が打たれ、耳の早いお金持ちは売り抜けたが、なけなしの資産を投じた一般の人たちは大損となった。

 

上海世博展覧館でのボートショーは2012年から2016年まで5年間続いたが、大型艇の出展は年々減少し、2014年には皆無となった。代わって日本式フィッシングボートが現れたがこれも長続きはしなかった。上海の近くの海は長江の水が流れ込むため茶色く濁っている、上海以外の海岸も水の汚いところが多く、潮回りも悪いので釣りに適していない。わづかに青島と大連の付近に良い釣水面があるのみで、総じていえば海釣は中国には向かないと言えよう。

というわけでボートショーの会場は2017年に新国際展覧中心(浦東地区)に移った、この展示場はパシフィコ横浜サイズの建物が17棟並ぶ大展示場であるが、建物は鉄骨にボードを張った構造で簡素である、多分使用料も安かったのであろう。展示も以前と比べるとこぶりになり、40フィート以下の輸入艇、少数の国産艇、部品・用品のみであった。3館を使用したが3館目はお茶や土産物などの物販店が並びボートショーだか何だかわからない状態であった。

 新国際展覧中心 中型艇、小型艇のみ

 

特筆することは、2018年にルアー釣り(路亜釣魚)コーナーができたことで、1館の約半分を使い、米国製バスボート、ロッド、各種ルアーなどが盛大に並び、トークショー、キャスティング大会なども行われた。このルアーフィッシングコーナーには他のコーナーと違う若い人や、普通の人が多く集まっていた。中国にはブラックバスはいないようであるが、嘴(シ・くちばしという意味)というシーバスに似た淡水魚、体長50~100cmくらい、がいてルアーに食いつくそうだ、陸っぱりでも釣れるそうで、5年ほど前から流行りだしたとのこと。トーナメントも開催されていて、プロもいるとのことである。中国では太公望の昔から川や湖での釣りは行われているのでこれからさらに広がると思われる。

鴼亜釣魚・ルアーフィッシングコーナー バスボートが並び、来場者も多い

 これが̪嘴(シという魚)

 

2019年ボートショーの会場が又代わった。こんどは市の西にある、虹橋飛行場近く、国家会展中心である。ここも大きい展示場で、大きな展示場(パシフィコサイズ)が2館ずつ並んで4ブロックになっている。2019ボートショーで使ったのは狭い北広場とセンターサークル(屋外、大テントを設置して部品・用品展示場とした)さらに8号館。北広場がボートショーとしてはメイン会場であるがボートの展示はわずかで、あとはエンジンなどであった。8号館には鴼亜釣魚コーナーが配置され、ここだけが盛況であった

メインの北広場 ボートの展示がは数えるほど

 

路亜釣魚・ルアーフィッシングは今後さらに普及してゆくであろう、釣り業界に大いに貢献すると思われる。

しかしボート業界にとっては分からない、というのは売られているボートは米国製のバスボート主体で、ボートとエンジンで日本円にして1500万円になるので通常の人は買うことが出来ない。

PWCも販売が増えて日本を上回る市場となっているが、バスボートもPWCも購入者はみなお金持ちの2世である。それでも総人口が多いので、ほんの一握りと言ってもかなりの数になる。そこそこの市場となろうが、中国全体のボート業界への影響は限られるであろう。

 

やがて習近平が引退し、世代交代が進めば贅沢禁止令もうやむやになり、富裕層が大型クルーザーやスーパーヨットの顧客として戻ってくるかも知れない。その時には再び世界から有力なボート市場として見直されるであろうが、それが何年後になるか不明である。

 


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